2025.03.03 | 今月の園だより
3月園だより
「遊ぶことが仕事?」
「イエスは言われた。『子供たちを来させなさい。わたしの所に来るのを妨げてはならない。
天の国はこのような者たちのものである。』(マタイによる福音書19章14節)
園長 塚本 吉興
わたしと妻の新婚旅行はカナダのトロントでした。(トロントにアイスホッケーの殿堂がある!)結婚式はアメリカで挙げたので、一旦アメリカに戻り、それから日本に行くことになっていました。言わば「荷物を詰めるために」入国したのです。空港の入国審査では、仏頂面の審査官が私のパスポートを受け取りながら尋ねました。「入国の理由は?」と。「仕事か遊びか?」という問いです。単に「旅行」と答えれば良いのですが、気分が高揚していたわたしは「Packing.(荷物を詰める)」と答えました。審査官の顔色が変わりました。「Huh?!」すぐに自分の事情を説明する羽目になり、余計な時間がかかりました。審査官には「パッキング?麻薬でも詰めるのか?何でそれを正直に言う?」と思われたのでしょうか。
「仕事か遊びか?」先日、幼稚園のこどもが動物ごっこの遊びをしていました。どうやら動物の家族のようで、おままごとのアニマルバージョンのようでした。でも、一人だけあまり乗り気でない子がいました。吠え方や歩き方が少し人間に近い、というのか、恥ずかしいのか動物に成り切れていない。すると、もう一人の子が、見ていたわたしに言ったのです。「えんちょうせんせ~、〇〇ちゃんにちゃんとするように言って!」そして、その子には「〇〇ちゃん、やるなら、ちゃんとやってよぉ~。」そう、遊ぶときも真剣に遊ぶ。ごっこ遊びで一人でも想像するのをやめてしまえば、でっかい夕日の沈むサバンナから一気に幼稚園のお部屋に連れ戻されてしまいます。だからこそ、やるなら、ちゃんとやって、とダメ出しが入ります。幼稚園の子どもたちは遊ぶことに真剣で、熱心で、一所懸命です。だからこそ楽しいのです。
うちの男の子たちは小学生の頃、少年野球チームに入っていました。運動神経ゼロのわたしはチームに入ってスポーツをしたのは高校に入ってからで、小さい頃は草野球しかしたことがありません。そんなわたしが、少年野球の保護者になって感じた不思議なことは、事あるごとに「仕事」という単語が出て来ることでした。プロ野球の解説者が「大谷はいい仕事をしていますね~」と言うのは分かります。でも、子どもです。ましてや野球はゲーム、試合開始の合図は「プレイボール!」なのです。相手チームの応援歌には「しーごと、しごと、しーごと♪」というものがありました。少しでもだらけたプレイ(!)をすれば、監督の「おーい、遊びでやってるんじゃないぞ!」という檄が飛びます。もちろん、休日返上で指導してくださっているお父さんコーチたちにすれば、へらへらしているのは腹が立つでしょうし、野球は軟式とは言え堅いボールを使いますから、ふざけていれば怪我をします。でも、やっぱりスポーツは遊びであって、それに真剣に打ち込むにしても、「仕事」ではないだろうーな、と思っていたのです。
「こどもは遊ぶことが仕事」と言います。でも小学生になれば、「中学校ではそれでは通用しないぞ」と言われ、中学校では「高校では…」と言われ、高校では「社会では…」と言われます。子どもは遊ぶことによって、世界を広げ、他人との関わり方を学び、自分の限界や可能性を知ります。遊ぶことは決して仕事ではなく、遊びなのです。子どもは遊ぶもの。それを妨げない大人でありたい。そして幼稚園では力いっぱい遊んでほしい。ゆり組さんには、その思い出を胸に卒園していってほしいと思います。